ビッグモーターと塾業界に共通する問題
最近、大手中古車販売業のビッグモーターによる様々な不正や詐欺行為が日本中で問題になっています。また、職場内の問題として苛烈なパワハラ、理由なき降格、社員への罰金・賃金の一方的減額など、もはやブラック企業の域を超えた超然ブラック企業ですね。報道された元副社長のパワハラLINEを見ても、異常な職場環境だったことが明らかですね。
今回のビッグモーターの不正の背景にあるのが「経営陣に盲従し忖度する歪な企業風土」「不合理な目標設定」「現場の声を拾い上げようとする経営陣の意識の欠如」などの職場環境が原因であると報道されています。
ところで、ビッグモーターと学習塾は、業種やビジネスモデル、顧客層が違いますが、実は、職場の労働環境において共通する問題点がいくつかあります。
ビッグモーターで指摘された「経営者に盲従し、忖度する歪な企業風土」「不合理な目標設定」「現場の声を拾い上げようとする経営陣の意識の欠如」が、自分の職場にも当てはまると感じた学習塾業界人も多いはずです。いくつかの共通点をまとめてみます。
ビッグモーターと塾業界に共通する職場問題
■ 経営者によるワンマン経営
ビッグモーターは1976年、兼重宏行前社長が、出身地の岩国市で「兼重オートセンター」を個人創業したことが始まりで、いわば創業者が1代で大きくした企業です。
実は学習塾業界も創業者が1代で築いて大きくした会社が大部分で、ビッグモーターと同様にワンマン経営者やイエスマンの幹部社員による独裁的経営が行われている企業が多いのです。
学習塾業界には労働組合が存在する会社はほぼ皆無に等しく、労組のない学習塾では、ワンマン経営者のツルの一声で、一方的な賃金減額、配置転換、降格、解雇、退職勧奨などが行われやすいのも事実なのです。
ビッグモーターも創業者が絶対的権力を握り、それに盲従、忖度する幹部社員により強権的な職場支配が行われていたようですが、学習塾業界にもこうした特徴を持つ会社もあります。
■ 過去の成功体験から脱却できない経営
ビッグモーターは創業後、80~90年代に急成長しますが、学習塾業界が発展したのも70年代後半~90年代にかけてです。この時期は第2次ベビーブームによる出生数増加で全国的に児童・生徒数が急増した時期になります。大手塾の多くは、この期間に個人塾から法人化して急成長した会社がほとんどです。
この第2次ベビーブーム世代を団塊ジュニア世代と言いますが、この世代の人口急増の恩恵にあずかって業績を伸ばしていきます。この頃に採られた方法がドミナント戦略です。これは主要駅前に基幹校舎をつくり、その周辺に枝状に中小規模の校舎を置き、同一地域に校舎を集中展開してシェアや知名度を独占する戦略です。
ビッグモーターも学習塾も、この時期にドミナント戦略で店舗数・業績・売上を増加させていったことは共通します。これはまさしく「成功体験」そのものです。
しかし、このような拡大路線は21世紀に入り少子化・高齢化が進むと頭打ちになります。ビッグモーターのようなクルマ屋も学習塾も、人口減少が進めば将来の市場や顧客が減るのは目に見えています。こうした場合、今までの拡大戦略の転換が必要ですが、いまだに過去の成功体験を捨てきれず、達成不可能な目標を現場に要求し過酷な労働を課す会社も多いのです。
つまり、これから市場がシュリンク(縮小)していくのに、今までの拡大路線に固執し、減った売上を補填するために無茶な目標を現場に押し付け、その結果、従業員に過酷な長時間労働やサービス残業を強いるという点も共通する部分です。
■コンプラ・ガバナンス・労働者の権利軽視の体質
ビッグモーターがコンプライアンス(法令遵守)や従業員の権利を軽視するブラック企業だということは報道から明らかですが、残念ながら塾業界もここ10年ほどのあいだに「ブラック業界」と認知されるようになっています。塾業界も昔から労働基準法等を遵守しない、従業員の権利を軽視する会社が多い業界です。
学習塾はワンマン経営のところが多く、労働組合もほぼ皆無なので、労働基準監督署にバレなければ、外部に漏れなければ何をやってもよいという企業体質が残っている会社もあります。
学習塾はビッグモーター同様、80年代以降に会社を法人化し組織を急拡大してきたので、たとえ大手であっても社内のガバナンスが機能していない会社もあります。特にワンマン経営者の力が強いところでは「世間一般のルールや常識」よりも「社内のルール・常識」が優先されることも多い業界です。
こうした企業体質を持つ職場では、ワンマン経営者や幹部の命令は絶対で、どんなに理不尽な命令であっても唯々諾々と従うことが求められます。もし経営者や幹部の方針に反論や異論を唱えれば、降格、賃金削減、遠隔地への配転、退職強要、解雇されるケースもあります。労働者の権利は無いに等しいです。
また経営陣が、過酷な労働に苦しむ従業員からの意見や要望を聞き、劣悪な職場環境を改善することはしません。労働者が働きやすい職場環境を作ることに関しては、ビッグモーターと同様に経営陣の意識が欠如していると言っても過言ではありません。
ビッグモーターが昔からコンプライアンスやガバナンス、従業員の権利を軽視するブラックな企業体質だったことは報道からわかりますが、塾業界も同じ企業体質(ビッグモーターほど酷くはないと思いますが・・)が残っている会社も実際多いのです。
ビッグモーターも、経営陣が過酷な売上ノルマを現場に強要し、達成できない社員を降格し、理不尽なペナルティを与えた結果、現場社員の不正が始まったことが報道から明らかです。
学習塾での労働組合の必要性
塾業界で、長時間労働、退職強要や解雇、賃金削減などが問題となり、労使紛争が発生し始めるのは、2003~2010年頃になります。これはちょうど第3次ベビーブームが起こらないことが確定し、少子化が既定路線となった時期とほぼ一致します。
つまり学習塾にとっては、少子化の進行 ⇒ 将来の顧客ニーズの減少 ⇒ 売上・利益の減少が確定した時期になります。この時期から学習塾の職場内で労働問題や労使紛争が表面化してきたのも、この頃から学習塾で働く人の労働条件や職場環境が急速に悪化し始めたからです。
学習塾の業界歴が長い人なら、この時期から年俸制による賃金制度改悪や労働時間の増加、40代以上のベテラン社員をターゲットにしたリストラ(退職強要)など、社内が「おかしな」方向に変化していくのに不安を感じた人も多いかもしれません。
大手学習塾内に労使対抗型の労働組合が結成されたのも、ちょうど2010年前後のことです。鈴鹿英数学院(eisu)の職場に労働組合ができたのは2007年です。同じく大手塾のワオは2004年、ウィザスは少し遅くて2014年ですね。
前述のように、塾業界はもともとワンマン経営者による強権支配が行なわれ、コンプライアンスや従業員の権利を軽視・無視する企業体質が、多くの会社で今も強く残っています。
これを放置すれば、それこそビッグモーターのような超ブラック企業が学習塾の中にも誕生していたかもしれません。職場に労働組合が結成され、しっかりと活動してきた学習塾では、経営者や幹部の強権による職場支配に歯止めをかけ、同時に従業員の労働条件、職場環境を改善してきたことは間違いないのです。
そうした意味において、私たちはワンマン経営体質がいまだに根強く残っている学習塾の職場にこそ、労働組合が必要だと思います。ビッグモーター社内にも、もっと早くに労働組合が出来ていたら、今回のようなことはおそらく起こらなかったと思います。
教育業界で働く皆さんの職場には「経営陣に盲従し忖度する歪な企業風土」「不合理な目標設定」「現場の声を拾い上げようとする経営陣の意識の欠如」などはありますか?
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