ビッグモーターに労働組合があったなら
数々の不正問題で話題が尽きないビッグモーターですが、報道からわかる社内の職場は超絶ブラックですね。日常的なパワハラにより、従業員を「恐怖」で支配し管理しようとする恐ろしい職場です。パワハラ以外にもブラックな労働環境を挙げればきりがありません。
ビッグモーターの職場環境の特徴である「経営陣に盲従し、忖度する歪な企業風土」「不合理な目標設定」「現場の声を拾い上げようとする経営陣の意識の欠如」は、そっくりそのまま、どこのブラック企業にも当てはまります。
私もいろいろなブラック企業を見てきましたが、これら3つの特徴をこれほど完璧かつ徹底しているブラック企業の事例はほとんど聞いたことがありません。
もし現在も『ブラック企業大賞』が続いていれば今年の受賞はビッグモーターで決まりですね。年末まで会社が存続しているかどうかは知らんけど・・
ところで、報道を見て少し疑問に思ったのですが、ビッグモーターではずっと昔から過酷で劣悪な職場環境が続いていたのに、今まで従業員がユニオン(一般労働組合)に加入し労働組合を結成しようとしたことは一度もなかったのだろうか? ということです。
ネット検索したらありました! 2019年、仙台のビッグモーター店舗を退職した2名の元社員が「仙台けやきユニオン」に加入し、ビッグモーターへの団体交渉とその後の闘争事例です。
興味のある方は『仙台けやきユニオン ビッグモーター』で検索すればブログが4本出てきます。悪名高い「経営計画書」も一部写真付きで載っています。以下にブログから読み取れる範囲で説明します。
ビッグモーターへの団体交渉申入れ
2019年、仙台のビッグモーター店舗で正社員の営業フロント(営業職のアシスタント)として働いていたE氏が、退職後に仙台けやきユニオンに加入(その後に元同僚のI氏も加入)しビッグモーターに団体交渉を行ないました。主な理由は以下の通りです。
ブログを読むと、2019年の時点でもビッグモーター社内ではパワハラが横行し、危険な業務の強要、経費の自己負担、有無を言わせない配置転換や労働条件の不利益変更など、超絶ブラックな環境だったことがよくわかります。
【一方的な配置転換と労働条件の不利益変更】
営業フロント職だったが、翌日から営業職への配置転換を通告された。営業フロントを本日で廃止し明日から全員営業職に配転する方針が決まったと説明された。
営業職ができない場合はどうなるのかと聞いたら、①登録事務スタッフへの異動(実際は空きなし) ②コールセンターへの異動(関東と九州しかなく転勤が必要) ③自己都合退職から選べと言われた。仕方なく営業職になったが賃金が大幅に低下した。
【危険を伴う業務の強要と社用車の修理負担の強要】
真冬にノーマルタイヤの社用車で豪雪地帯に出張査定に行くことを命じられ、断ると店長から暴言を吐かれた。社内規定では営業職社員が社用車を使用し、業務中に事故を起こし社用車を壊した場合、社用車の修理費は社員の負担になっていた。
【手当等の未払い】
営業フロント職手当として毎月5万円支払うと通知されていたが、手当が固定残業代と相殺され、満額支給になっていなかった。
【有給休暇が取得できない】
有給休暇の取得を店長に請求しても、理由如何では取得させない運用となっていた。
【休憩時間がない】
労働条件通知書では営業職の休憩時間は90分だったが、実際には15分しか取れない。
ビッグモーターが謝罪し職場の改善を約束
ビッグモーターとの団体交渉は数回行われたようですが、最初、会社側は意味不明な主張に終始していますが、けやきユニオンが団交でそれらの矛盾を追及して崩していくのは面白いです。このあたりの詳細については、けやきユニオンのブログをお読み下さい。
そして団体交渉の結果、ビッグモーターは、けやきユニオンと元社員に謝罪し、これから職場の労働環境を改善していくことを約束したようです。主な内容は次の通りです。
■強引な配置転換への謝罪と、解決金の支払い
■社内のパワハラや危険を伴う業務指示への謝罪と、是正を約束
■未使用の親睦会費について返金を約束
■営業職社員が使用している会社貸与の携帯電話使用料の全額返金
■労働基準法違反事項の是正について約束
■退職願のフォーマットの是正について約束
労働組合結成のチャンスにはならず
でも結局、この後、ビッグモーターがけやきユニオンとの約束を守り、社内体制や職場の労働環境の是正を進めていくことはありませんでした。『歪な企業風土』はその後も変わらず、現在の不祥事が表面化するまで連綿と続いていきます。
そうなった理由は、この時ユニオンに加入したのは「ビッグモーターを退職した」人だったからです。社内に労働組合員がいない状況ではユニオンでも限界があります。ビッグモーターが解決金(和解金)を支払って金銭解決し、E氏、I氏を会社都合退職にして幕引きした感じですね。
もしこの時、各地のビッグモーターの現役社員がユニオンに加入し、現役社員中心の「ビッグモーター分会」のような労働組合が各地の店舗で結成されていたなら、その後の展開はかなり変わったと思います。
そうなれば現在の不祥事や各種の問題も発生しなかったかもしれません。会社の企業風土や社内体制を大きく変えるチャンスだったと考えると、そうした流れにつながらなかったのはとても残念です。
でも一方で、ビッグモーターのような超絶ブラック企業には、そもそも自浄作用が期待できず、社内に労働組合をつくって改善を要求するよりも、さっさと辞めてもっとまともな企業に転職すべきだという考え方もあります。
どちらを選べばうまくいくのか? このあたりの判断はなかなか難しいのが実状です。
一つ言えることは、この時、けやきユニオンが、ビッグモーターとの闘争に勝利し、解決金と労働者への謝罪、職場の労働環境の改善を約束させたことです。
この点から考えると、もしビッグモーター社内に労働組合が結成され、その後も継続して活動していれば、現在のように日本中に悪名を馳せる超絶ブラック企業にはならなかったのではないかと思います。
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