西部池袋百貨店のストライキに思うこと
8月31日、西部池袋百貨店でそごう・西部労働組合による従業員の大規模なストライキが発生し、池袋百貨店はこの日は臨時休業しました。大手百貨店での従業員のストライキはなんと61年ぶりだそうです。一方、アメリカやヨーロッパでは、大規模なストライキ発生のニュースがたびたび報道されていますね。
ストライキは激減している
1970年代~80年代の昭和の頃は、日本でも大規模なストライキはたびたび発生していました。旧国鉄などが大規模ストライキをおこなって電車が止まるなんてこともありました。でも平成以降~現在にかけてストライキの発生件数は急速に減っていきます。
厚生労働政策研究・研修機構によると、ストライキやロックアウト、サボタージュなどの「争議行為を伴う労働争議」のピークは1974年で、年間9581件あったようです。その後減少が続き91年には935件。09年には92件。21年には55件となっています。あのリーマンショックの時でさえ、大規模な争議行為はほとんど発生していません。
21年度における「争議行為を伴う労働争議」を産業別にみると、件数では「医療、福祉」が18件で最も多く、「製造業」と「教育・学習支援業」がそれぞれ8件となってます。教育・学習支援業での争議が思いのほか多いのは意外ですが、この「教育・学習支援業」の争議の内訳は、おそらく私立の学校法人で発生したもので、学習塾など民間教育業での事例はないと思われます。
ストライキが激減した本当の理由
なぜ日本でストライキなどの争議行為が減ったのか? その理由として、企業内において労使協調(問題があれば労働組合と経営側が話し合いで解決する)が進み、経営側と労働者が直接ぶつかり合うことがなくなったからだと言われます。
日本の労働組合の特徴は、企業ごとに組織された企業別組合で、大企業を中心とした労組になります。つまり平成以降、企業別組合をベースとする安定した労使関係が定着してきたことが、労組がストライキという強い実力行使に出ることを抑制してきた要因だと説明されます。
でも、これは正しい見方なのでしょうか?
労組のある大企業でも長時間労働による精神疾患や過労死などがたびたび報道されます。もし労使協調が進んだなら、社内の労働環境も良くなりこうした事件は起きないはずです。また企業内での労使協調路線が主流になっていれば、いわゆるブラック企業問題もこれほど多くはないはずです。
日本でストライキが減った本当の理由は、ストライキなどの争議行為を実行できない労働者層が増えたからです。それには次のような背景があると思います。
背景その1 労組のある中小企業はほぼ皆無
日本の労働組合の多くは大企業中心に組織されたものです。一方、ほとんどの中小企業には労組はありません。したがって中小企業で働く労働者が経営者に対して労働条件や職場環境改善などを要求して交渉する場合は、地域のユニオン(一般労組)に加入するしか方法がないのが実状です。
ユニオンは、個々の組合員(労働者)の労働条件などの問題を、労働者側に立って使用者と交渉して解決するという点では大きな力を発揮できますが、その企業内の多くの労働者を加入させ組織化しないとストライキなどの争議行為を効果的に行うことはできず、全社的な賃上げや労働条件の向上は図れません。これは現状でのユニオンの限界とも言えます。
たとえば従業員100名の会社で、その中の5名がユニオンに加入したとします。この5名が社内でストライキを実行したとしても、その企業に与えるダメージが少ないのは容易に想像できると思います。争議行為を効果的に行うには、多くの労働者が労組に加入し争議に参加することが必要です。
つまりは争議に参加する労働者の「数」=「力」ということです。
では労組に加入する労働者の「数」が少ないと、効果的な実力行使はできないのか? ブラック企業には対抗できないのか? 決してそんなことはありません。
なぜなら「数」=「力」という考え方は昭和の頃には正しいですが、令和の現代では常に正しいとは言い切れないからです。ユニオン関係者の中にも、いまだに「数」=「力」という考えから脱却できていない人もいます。
「数」が少ないのなら、闘い方を工夫すればいくらでも実効性のある争議は可能です。現代にはそのためのお役立ちツールが豊富にあります。
具体的には、ここで言う「数」の定義を現代風に捉え直せば突破口が見つかります。つまり対抗手段はあります。これについては別の機会に説明したいと思います。
背景その2 非正規労働者の増加
昭和の頃の労働者の雇用形態は正社員(正規雇用)が中心で、それ以外の非正規雇用はパート、アルバイトでした。ところが現代では正社員の割合が減り、労働者の4割は契約社員、派遣社員などの非正規雇用となっていて、労働者の多様化が進んでいます。
日本の労働組合は企業別組合であり、労組が組織化する労働者はその企業に正規雇用される人となります。短期間の雇用契約を前提とする非正規労働者はその企業内にある労働組合には加入できません。
非正規労働者を積極的に労組に加入させ、組織化してこなかったことが「正規雇用社員」と「非正規雇用社員」を分断させていきます。こうした分断が労働者どうしの連帯を阻害し、多くの労働者の参加が前提となるストライキなどの争議行為を実行できなくさせています。
これは平成以降の日本の雇用環境の変化に労働組合の対応が追いついていなかったことが原因です。
これからの日本には産業別労組が必要
日本の労働組合の特徴は・・
①企業別に労働組合が組織されており、大企業中心である。
②企業別の労働組合に加入できるのは正規雇用の労働者である。
ということです。これらの特徴により、労組のない中小企業で働く労働者や、短期雇用の非正規労働者にとって、労働組合はまったく縁のない存在となり、多くの労働者は労働組合の保護の対象外になっています。
また現代では同一企業内の同じ職場や部署でも、正規雇用、契約社員、派遣社員、パ-トなどさまざまな雇用形態の人が働いています。正規雇用の労働者を対象とする企業別組合では、こうした幅広い雇用形態の労働者への対応は困難です。
一方で、アメリカの労働組合は、産業別に横断的に組織されているのが特徴です。これはたとえば自動車産業なら、日本のように、トヨタ、ホンダ、日産などの自動車メーカー別ではなく、アメリカ国内の自動車産業で働くすべての労働者を対象に組織された巨大な労働組合です。
日本にも、こうした産業別の労働組合があれば、同じ産業で働く労働者であれば、職場が大企業だろうが中小企業だろうが、また正規雇用であろうと非正規雇用であろうと、職場の違いや雇用形態を問わず、多くの労働者を参加させ組織化することが可能になります。そうなれば極めて大きな実行力を持つことができると思います。
私たちが目指すのは、民間教育・公教育を問わず、また雇用形態も問わず、日本の教育業界で働くすべての労働者が参加できる「教育産業」に特化した産業別の労働組合を作ることです。
たとえば「学習塾・予備校・民間スクール」「学校教員」「幼稚園・保育園」「各種専門学校」などの部門に分け、それぞれの職種で働くさまざまな雇用形態の労働者に参加してもらい組織化することで、経営者や行政に対して職場の労働環境の改善を要求する圧力団体のような形にしたいと思っています。
「教育産業」で働くすべての労働者を横断する大きな力を持つ労働組合ができれば、ブラック業界と揶揄される日本の教育業界を変えることができるのではないかと思ってます。
まあこれは、現状においては「こうなったらいいな」という夢の話ですけどね・・