サブロク協定の正しい見極め方
全国の学習塾・教育業界で働く皆さんへ。
塾業界では4月が年度初めになります。最近では新年度に向けた新規生募集の必要から3月を年度初めとする会社も増えています。
なので2月や3月は新年度の残業や変形労働時間に関する労使協定が、会社と従業員代表とのあいだで締結され、労働基準監督署に提出される時期になります。
会社が労働者に残業や休日労働を命じる場合や職場に変形労働時間を導入する場合には、使用者(会社)と労働者代表(社員)とのあいだで残業協定や変形労働時間に関する労使協定を締結する必要があります。これらは職場の労働時間や残業等の労働条件の根幹を決める極めて重要な協定となります。
残業協定は通称三六(サブロク)協定とも呼ばれ、一般にはなじみのない用語ですが、職場で働く労働者にとってはとても大切なものです。
しかし学習塾においては、これらの労使協定が適切に締結されておらず、その手続きに問題のある会社も実際には多いのです。
もし職場で労使協定が適切に結ばれていないと、どういうことが起こるのでしょうか。労使協定の問題は、eisuでも過去に労使紛争になった事例があります。以下にその問題点について書いていきます。
三六(サブロク)協定に関する問題
労働基準法第32条には、使用者(会社)が、労働者に休憩時間を除き1週間40時間を超えて、また1日8時間を超えて労働させてはならないという規定があります。これを法定労働時間といって、もし使用者(会社)が労働者を法定労働時間以上に働かせると、労働基準法違反となり罰せられます。
そこで使用者が労働者に法定労働時間を超えて労働させたり、休日に働かせる場合には、使用者と労働者代表とのあいだで時間外・休日労働にかかる労使協定(サブロク協定)を結び、労働基準監督署に届け出ることが必要なのです。
サブロク協定と呼ばれるのは、これが労働基準法第36条を根拠とするからです。サブロク協定を毎年締結していれば、使用者が労働者を法定労働時間以上に働かせても労働基準法違反で罰せられることはありません。一種の免罰規定といえます。
問題なのはサブロク協定を適切に締結・届出せずに労働者を働かせている学習塾も多いことです。
時間外労働について就業規則に記載され、残業協定の内容も社員の誰もが見ることができるように周知されることも必要ですが、そうなってないケースも実際多いのです。
またサブロク協定を締結する労働者代表は、労働者の中から選挙などの公正な手段で選ばれることが条件ですが、選挙を実施せず、会社の役員や幹部が労働者代表になっていたりするなど、労働者代表には不適格な人が選ばれている場合もあります。
こうした会社では、社員全員が、労働者代表が誰なのか、どのように選出されたのか、労使協定の存在すら知らないというケースもあります。
こうなると現場の労働者は、使用者(会社)の命令で、いくらでも働かされることになります。しかも残業手当などまったく出ません。過労死や精神疾患に追い込まれる労働者がいつ現れても不思議ではありません。
eisuも社内で労働組合ができる前は、これと似たような状況でしたけどね・・
自分の働く職場で、サブロク協定などの各種労使協定が適切に締結されているかどうかを見極める方法は実は簡単です。次の3つを確認すればいいだけです。
1.労働者代表を選ぶ選挙が毎年実施されている。選挙は無記名投票で行われる。
2.現在の労働者代表が誰なのか、社員全員が知っている。
3.会社が労働基準監督署に届出した労使協定の内容は、社員が自由に閲覧できる。
上記1~3が一つでも当てはまらなかったら、自分の職場はブラックである可能性はかなり高いです。
注意点ですが、サブロク協定の締結はあくまで労働基準法第32条の免罰規定であり、残業代の免除にはならない。つまり法定労働時間を越えて働いたら、残業代は支払われるのが当然ということを覚えておきましょう。
年変形労働時間協定に関する問題
学習塾では社員の労働時間について「1年単位の変形労働時間制」(通称:年変形)を採用している会社が多いです。ウィザスやワオコーポレーション、eisuでも採用しています。年変形の労働時間制は次のようなシステムになります。
最初に1年間の総労働時間を決め、それを平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内において・・
1.特定の週に40時間を超えて労働させることができる。
2.特定の日に8時間を超えて労働させることができる。
3.上記により法定労働時間を超過した場合でも時間外賃金を支払う必要はない。
学習塾は普段午後1時~2頃出勤して10時~11時頃退勤となる会社が多いので、週休2日制なら休憩時間を除く週あたりの実質労働時間は36~38時間程度になります。ところが夏期・冬期・春期の講習期間中の繁忙期はそれこそ朝8時~夜10時まで連続して勤務することもあります。
つまり1年単位の変形労働時間制は年に何回か繁忙期のある業界・会社にとっては残業代を抑制できるとても都合の良い制度なのです。つまり繁忙期には法定労働時間より長く働いてもらい、それ以外の時期には法定労働時間よりも短く働いてもらう。
1年間で平均して週当たり40時間以内に収まっていれば法律上問題はない、残業代も支払わなくてもよい。という制度になります。
この制度を導入する目的はただ一つ。労働者を働かせても残業代を払いたくないためで間違いありません。
この制度は、会社の悪用を防ぐため、その導入・運営にあたってはいろいろと細かな手続きや制約があります。1年単位の変形労働時間制を採用するには、以下の4つが必要になります。
1.会社の就業規則に記載する。
2.対象となる労働者の範囲、起算日、対象期間を決める。
3.対象期間内の各労働日ごとの労働時間等について、会社と労働者代表が労使協定を締結する。
4.締結した労使協定を所轄の労働基準監督署へ届出する。
問題なのは、この変形労働時間制の手続きや運用が不適切な学習塾も多いことです。不適切な事例の多くは変形労働時間に関する労使協定にあります。
見極める方法は、サブロク協定のところで書いたことと一部重複しますが・・
1.毎年あるべき労働者代表選挙をしていない。
2.現在、誰が労働者代表なのか誰も知らない。
3.年変形労働時間の対象となる労働者、起算日、対象期間、年間総労働時間がまったくわからない。
4.特定期間の有無や、特定期間中の連続勤務日数の上限もわからない。
5.労働基準監督署に届け出た年変形労働時間の労使協定を社員が自由に閲覧できない。
このようになっていたら、会社は年変形労働時間制を適切に締結・運用しているとは到底言えず、会社は労働時間や残業に関わる重要な内容を社員に隠蔽していることになります。したがって後日大きな問題が起こると労使紛争や従業員の大規模な未払い残業代請求訴訟に発展する可能性が高くなります。
注意点ですが、変形労働時間制でも一定の条件を満たせば時間外労働が発生するので、残業代を支払う必要があることを覚えておいて下さい。年変形労働時間制を「定額働かせ放題システム」と呼ぶ人もいますが、そんなことはありません。なお1年単位の変形労働時間制の詳しい説明は別の機会にします。
eisuでの過去の事例
10年以上前までは、eisuでもサブロク協定や年変形労働時間の労使協定は、誰が労働者代表として締結しているのか、その内容はどのようになっているのか、社員の誰も知らない。という時代が長く続いていました。もちろん毎年の労働者代表選挙もまったく行なわれていませんでした。
これが抜本的に改善されたきっかけは、2012年5月、経営者が社員の年間公休日数を突然10日以上も減らす通達を出したことです。当時 eisuでは1年単位の変形労働時間制が運用されていました。
実は1年単位の変形労働時間制は年度当初に運用が開始されると年度途中での変更・改変は原則できないのです。年度途中で社員の公休日を減らすことは、年変形労働時間を年度途中で変更したことになるが、理由もないのにこんなことが可能なのか?
こう考えた労働組合eisuユニオンは、すぐに会社に団体交渉を申し入れ、団体交渉の席上で、会社が保有するサブロク協定と1年単位の変形労働時間の労使協定(労基署への届出済印があるもの)の開示を要求しました。
その結果わかったことは・・
・会社はサブロク協定(残業協定)を作成していない。労基署にも届出していない!
・年変形労働時間に関する労使協定も作成していない。労基署にも届出していない!
というとんでもない事実が発覚しました !
会社の説明では、事実が発覚する数年前まで作成、提出していた(もちろん適正な手続きはしていない)そうですが、前任者(役員)が退任した時に後任者(幹部社員)への引継ぎがきちんとされておらず、後任者は毎年そうした手続きがあることをまったく知らなかったそうです。
つまり数年間、eisu社員は「違法労働・違法残業状態」に置かれていたことになります。eisuユニオンは、すぐに労働基準監督署に是正申告し、会社に改善を要求して闘争を行なった結果、eisuでは労働者代表選挙や各種労使協定の締結が適切に行なわれるようになりました。
今では毎年2月~3月中に社内5部門で労働者代表選挙が実施され、締結・届出された各種労使協定は、社内のイントラネットにアップされ、社員なら自由に閲覧することができます。
eisuの事例からの教訓ですが、会社と労働者が三六協定や年変形労働時間の労使協定を締結する理由は何なのか? それは労働者が「会社の働かせ方」をチェックし、会社が労働者に「違法な働かせ方」を強要していないかどうかを労働者の側から監視するためなのです。
したがって、労使協定を適切に締結すること。労働者が労使協定の内容を閲覧できること。最低限この2点が確保されなければ、会社の命令でいくらでも都合のいいように働かされることになります。
何十日にもおよぶ連続勤務やサービス残業の強要、過労死や精神疾患から自分の身を守るためにも、労使協定の適切な締結とその内容の開示は最低限必要なのです。
もし皆さんが働く職場で長時間労働、連続勤務、休日出勤、サービス残業などが蔓延していたら、一度会社の労使協定が適切かどうかを、上で解説した見極めポイントを使ってチェックしてみて下さい。おそらく適正な手続きはされていないと思います。