フリーランス契約の罠

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塾業界で働く人からの相談

ここ数年、全国の学習塾で働く人から、会社から業務委託契約を結び、フリーランス(個人事業主)として業務を行うように強要され困っているという相談を受けるようになりました。

会社が、雇用する労働者と業務委託契約を結び、労働者を「フリーランス化」することは、会社が労働者を直接雇用せず、個人事業主として業務を委託する(請け負わせる)ということです。

近年、会社に雇用されずにフリーランスとして個人が独立して仕事を請け負う働き方が注目されるようになり、政府や経済界も多様な働き方の一つとしてフリーランスの拡大を後押ししています。

でも普通の労働者が、会社から業務委託契約の締結を強要され、フリーランス(個人事業主)に転換すると、取り返しのつかないことになります。労働者の権利が失われ極めて弱い立場に置かれます。

少し前に、ウーバーイーツやアマゾンの配達員、ヤマハ音楽教室の講師がユニオン(一般労働組合)に加入し労働組合を結成して、会社に団体交渉を要求したのに、会社が応じないということがニュースになってましたね。

ウーバーイーツやアマゾンの配達員、ヤマハ音楽教室講師の労働組合からの団体交渉要求をなぜ会社が拒否したのか?  それは彼らが会社に雇用される労働者ではなく、 フリーランス(個人事業主)だったからです。

フリーランスの働き方とは?

フリーランスの働き方とは、会社が労働者を雇用して業務を行なわせるのではなく、個人事業主として業務を委託する(請け負わせる)働き方です。

では、会社に直接雇用される労働者(正社員、契約社員、パート、アルバイト)とは何が違うのかと言うと、フリーランス(個人事業主)は会社に雇用される労働者ではないことです。会社と業務委託契約を結んでその対価として報酬(労働者ではないので賃金とは言わない)をもらうという働き方です。

フリーランス(個人事業主)として働く人の例としては、技術者、ライター、デザイナー、弁護士、公認会計士、コンサルタント、芸能人、芸術家など高度かつ特殊な専門的知識・技能・才能を持つ人が当てはまります。

業務委託契約はあくまで専門的知識や技能、才能を持つ人がそれを生かして仕事をすることを想定した契約です。つまり一定レベル以上の専門的な技能や資格、才能を持つ人の働き方であり、一般のホワイトカラーや事務職を想定したものではありません

大学卒業後ずっと会社に雇用され、高度な専門的技能や資格を持たない「普通の労働者」だった人が、明日からフリーランス(個人事業主)として働けと言われても絶対うまくいきません。デメリットのほうが大きいのです。

リストラとしてのフリーランス化

それでは、会社が業務委託契約の締結を労働者に強要し、フリーランスにする目的は何でしょうか? それは労働者の「人件費の圧縮」と「労働者の権利のはく奪」「会社に有利な力関係の構築」なのです。

会社にとっては、労働者をフリーランス(個人事業主)に転換すれば、労働者の雇用保険や厚生年金保険料、健康保険料等を会社が負担する必要はなくなります。また通勤費や残業代、賞与なども払わなくてもよくなります。

「業務委託契約の解除(いわば解雇)」や「報酬の減額」も簡単にできます。特にその会社に雇用される社員がフリーランス(個人事業主)に転換した場合、「力関係」は対等になり得ず、同じ職場(会社)で業務を委託され継続して働く人はかなり弱い立場に立たされます。

また経営者にとっても、会社が雇用する労働者を解雇したり賃下げなどした場合、労使トラブルになりやすくリスクも高いですが、フリーランス(個人事業主)だとそうしたリスクはほとんどありません。そこで言葉巧みに「業務委託契約」を結ばせ「労働者」の権利を奪ったうえで安上がりに酷使しようということなのです。

問題なのは、会社が合法的に労働者をリストラするために、労働者に業務委託契約を結ばせ有無を言わさずフリーランス化を進めるケースが急増していることです。どうやらブラック社労士・弁護士・コンサルなどが経営者に人件費を合法的に減らす方法としてアドバイスしているようです。

会社にとっては、労働者をフリーランスに転換させ業務委託契約を結んで働かせたほうが人件費を減らせるし、会社が負担する諸経費もカットできます。また「報酬の減額」や「首切り」なども簡単にできるのでメリットはとても大きいのです。

業務委託契約締結で労働者ではなくなる!

業務委託契約書にサインしてフリーランス(個人事業主)に転換するとどうなるのか?

業務委託契約を結ぶと、いったん自己都合退職扱いとなり会社との雇用関係が消滅します。その後個人事業主として新しく業務委託契約を結ぶことになります。つまり会社と業務委託契約を結ぶと「会社に雇用される労働者」から「個人事業主」へと立場が転換します。

この「雇用される労働者」と「個人事業主」との違いをしっかり理解しておかないと大変なことになります。労働者が個人事業主に転換すると、次のようになります。

1.労働法に保護されなくなる。

個人事業主は労働者ではないので労働基準法、労働契約法など労働諸法規の対象外となり、その保護を受けられなくなります。労働基準監督署や労働局に訴えても、労働者ではないので解決は困難です。

2.社会保険料はすべて自己負担となる。

労働者ではなくなるので、社員なら会社が半分負担している厚生年金や健康保険なども全額自己負担(国民年金・国民健康保険)になります。また仕事中にケガをしても労災保険による補償は受けられず、すべて自己負担となります。後遺症が残っても自己責任で片づけられます。(注:現在個人事業主への労災保険適用が検討されています)

3.失業しても失業手当はない

業務委託契約を一方的に打切られた場合(個人事業主は労働者ではないので、解雇という表現はありません)、労働者なら一定の条件を満たせば雇用保険から失業手当がもらえますが、、労働者ではない個人事業主にはそうした制度はなく、失業しても失業手当はもらえません。

 4.労働者としての権利がなくなる

労働者ではないので残業代や賞与、各種手当はなくなり、さらに有給休暇や介護休暇、育児休暇などの各種休暇、通勤費支給などの労働者としての権利も失います。

 5.報酬を減額されても対処は難しい  

個人事業主の場合、その報酬額は業務を委託する会社との交渉で決まります。しかし力関係から報酬額を切下げられることもあります。拒否することも可能ですが、それは業務委託契約の解消 ⇒ 仕事を失うことを意味します。

もともとその会社に社員として雇用されていた場合は、低い報酬でも受け入れざるを得ない状況に立たされます。また報酬に未払い等があっても個人で対処するしかなく、この点でも不利になります。

 6.不安定な立場に置かれる

業務委託契約は会社に雇用される正社員のように「期間の定めのない契約」ではなく、期限・条件付きのものとなります。したがって常に不安定な立場に置かれ、会社の都合で一方的に契約を打切られることがあります。もしそうなっても個人事業主の立場ではどうすることもできず、別の契約先を探すしかありません。

7.労働基準監督署に相談しても動いてくれない

よくわからずに会社に言われるまま業務委託契約書にサインしてしまい、後で「しまった」と思って労働基準監督署や労働局に相談しても、「あなたは労働者ではないので対応できない」と言われて追い返される事例もすでに報告されています。

労働基準監督署や労働局は、あくまで企業と雇用される労働者に、労働諸法規を遵守させるためにある役所なので、そもそも労働基準法等の保護の対象外である個人事業主のために動く義務はありません。

弁護士やユニオン(一般労働組合)が付き添っていれば話は聞いてくれますが、個人で相談しても門前払いされる可能性もあります。あくまで相談する労基署や労働局の担当者次第ですが、解決は難しくなります。

8.ユニオンでも対処は難しい

会社から業務委託契約を強要され、一度契約書にサインしてフリーランス(個人事業主)に転換すると、もはや労働者ではないので、ユニオン(一般労働組合)でも対処は困難です。ユニオンがその会社に団体交渉を要求しても「当該人は労働者ではないのでユニオンの要求に応じる義務はない」と拒否されるからです。

前述したウーバーイーツやアマゾンの配達員、ヤマハ音楽教室講師の事例からも明らかです。したがってこうした場合、ユニオンでも解決までにかなりの時間を要します。

以上のように、一度、業務委託契約を受け入れフリーランス(個人事業主)に転換してしまうと、労働者の権利を失い、労働法の保護も受けられなくなり、経済的にも極めて不安定な立場に立たされることになります。

次回は、会社から業務委託契約の締結を強要された場合の対処法について、「やるべきこと」「やってはいけないこと」を含めて具体的に解説していきます。

 

会社に言われるまま業務委託契約書にサインすることは絶対にやめましょう!

取り返しのつかないことになります!

業務委託契約書にサインする前に、必ずユニオンに相談を!

 

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