年変形労働時間の注意点 ①

この記事はプロモーションが含まれています。

全国の教育業界で働く皆さんへ。

学習塾では、従業員の労働時間制度として1年単位の変形労働時間(年変形労働時間)が採用されていることが多いです。この労働時間制は学習塾以外にもさまざまな業界・企業で採用されており、現代では定番となった働き方ともいえます。

この制度は「定額働かせ放題の労働時間制度」とも呼ばれ『労働者にどんなに残業させても残業代を支払わなくてもよい制度』だと誤解している人も多いです。これは年変形労働時間制度の中身(実は結構複雑です)を理解していない人が多いからだと思われます。

そこで1年単位の変形労働時間の説明と注意すべき点を3回に分けて解説していきます。

1年単位の変形労働時間制とは

現在、さまざまな企業で、従業員の労働時間について「1年単位の変形労働時間制」(通称:年変形)を採用している会社が多いです。eisuなどの大手塾でも採用されています。年変形の労働時間制とは次のようなシステムになります。

最初に1年間の総労働時間を決めておき、1年間の総労働時間の平均が1週間あたり40時間を超えない範囲に収まっていれば・・

1.特定の週に40時間を超えて労働させることができる。

2.特定の日に8時間を超えて労働させることができる。

3.上記により法定労働時間を超過した場合でも時間外賃金を支払う必要はない

つまり繁忙期には法定労働時間より長く働いてもらい、それ以外の時期には法定労働時間よりも短く働いてもらう。1年間で平均して週当たり40時間以内に収まっていれば法律上問題ない、残業代も支払わなくてもよいという制度になります。

見方を変えれば、1年間の対象期間の中で、1日8時間、週40時間を超えて働いても残業代がもらえない日・週がある。ということです。

年変形の労働時間制は年に何回か繁忙期のある業界・会社にとっては残業代を抑制できるとても都合の良い制度なのです。この制度の導入目的は労働者に残業代を払いたくないためで間違いありません。

なお、この制度を運用するには、残業協定(通称:サブロク協定)と、年変形労働時間の労使協定の2種を会社と従業員代表とで締結することが法律上必要となります。

労使協定について詳しく知りたい方は、当サイトの過去記事『サブロク協定の正しい見極め方』をご覧下さい。年変形労働時間制を正しく運用するには、労使協定が適切に締結されているかどうかが絶対条件なのです。

年変形労働時間の設定

年変形労働時間を設定するには、最初に1年間の総労働時間を決めます。この年間総労働時間には上限があり、最大で2085時間(うるう年は2091時間)となります。

この理由は、1週間の労働時間を法定労働時間である40時間に設定すると・・

40時間 × 365日 ÷ 7= 2085時間 となるからです。

したがって会社は、年変形労働時間制を採用・導入する場合、対象となる開始日(起算日)と最終日を決め、1年間の総労働時間が2085時間の範囲内に収まるように、労働日数と労働時間を割り振り、労働日と公休日を設定することになります。

すると1日の所定労働時間が8時間の会社では、年間の労働日数は260日・年間休日数は105日 と自動的に決まります。

つまり年間総労働時間2085時間を8時間ずつ割り振ると・・

2085 ÷ 8 = 260.6  になるので、年間労働日数は260日となります。

同時に 365-260 = 105  となるので、年間休日数も105日になります。

これで1年間の労働日数が自動的に決まるので、後は会社が260日分の労働日を決め、年間カレンダーを作成することになります。大手塾の中で有給休暇を除いた年間休日数を105日前後に設定する会社が多いのはこれが理由です。

マイナビやリクナビなどの求人サイトで年間休日数を105日前後と記載している会社は、1年単位の変形労働時間制を採用していると考えられます。法律で規定された年間総労働時間の上限いっぱいまで働かせるのには姑息さを感じますが・・

ただし求人サイトの労働条件が本当かどうかは実際に入社しないとわからないです。学習塾のほとんどは労働組合がないので、求人サイトに105日とあっても実際の公休日数はそれよりずっと少ないケースもあります。

問題なのは、もし会社が社員に知らせず勝手に労使協定を作成して労働基準監督署に届出る、社員に労使協定の内容を開示していないなら、年変形労働時間を会社が恣意的に運用することはいくらでも可能な点です。

年変形労働時間には上限がある

ところで学習塾では繁忙期である講習期間以外は、1日あたり実働7~7.5時間程度、週あたり実働37~38時間程度(週休2日の場合)の労働時間を設定している会社が多いです。

そこで繁忙期以外の1日あたりの労働時間を短くすれば、社員の年間総労働日数を増やせるし、休日数も減らすことができると考える人がいても不思議ではないですね。いかにもブラック企業の経営者が考えそうなことです。

仮に1日の労働時間を7時間にすると、年間総労働時間2085時間を増やさずに、年間労働日数298日。年間休日数を67日とすることができます。ヤバイことですが、実はそうなりません。

なぜなら、年変形労働時間制では1年間の労働日数の上限が280日と決められているからです。

実は労働基準法により、年変形労働時間制の労働日数・労働時間・連続勤務日数については上限があります。法律もブラック経営者が考えそうなことには先手を打っています。

年変形労働時間制では、対象期間の労働日数、1週間・1日の労働時間数、連続勤務させることのできる日数は、次のとおり限度が決められています。皆さんはこれらをしっかりと覚えておいて下さい。

上限の項目限度となる日数・時間数
労働日数(1年あたり)280
労働時間(1日あたり)10時間
労働時間(1週間あたり)52時間
連続勤務が可能となる日数(原則)6日
連続勤務が可能となる日数(特定期間)12日

 

会社は、これらの限度を超えない範囲で、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を決めなければなりません。

この表で注意すべき点は、年変形労働時間制の下では、対象期間のうち特に繁忙な時期には特定期間を定めることができることです。

特定期間中は連続して労働させる日数の制限が緩和されるので、年変形労働時間の労使協定で特定期間を定めれば、その期間中は最大12日間連続勤務させることができます。

特定期間とは、例えば、1日9時間や、1週間48時間を超える労働時間を設定している期間や、連続勤務日が6日を超える期間などをいいます。

特定期間の長さは原則として1回につき3週間以内。年間でも最大6回までとなっていて、1年の大半を特定期間として定めることは法の趣旨に反するのでできません。

特定期間とは、繁忙期のため連続労働させられる日数を最大12日まで延長できるのが法律の趣旨なので、当然ですが特定期間中でも1日10時間、1週52時間の労働時間の上限規定があります。

ところで労働基準法第35条に「労働者に毎週少なくとも1回の休日を与えねばならない」という規定がありますが、実は12連勤は法律違反にはなりません。簡単に言うと言葉のロジックですね。詳細はeisuユニオン公式サイトの記事連続勤務は何日までか?をご覧下さい。

年変形労働時間制を採用する大手塾の中には、年間休日数が85日の会社もありますが、これはつまり年間労働日数が280日あることになります。

こうした会社では年変形労働時間制において、繁忙期以外の1日あたりの労働時間を短くして、年間労働日数を上限まで増やす一方で、社員の年間休日数を減らしています。労働条件が良い会社ではないですね。

次回は1年単位の変形労働時間制で時間外労働(残業)となるケースについて説明します。

フォローお願いします