ブラック企業の有休を取らせない方法 (前編)
労働組合 eisuユニオンは先日、大手学習塾 eisu(鈴鹿英数学院)で働く社員の年次有給休暇(有給・年休)の10月末時点での取得状況を、eisuユニオン の公式サイトで開示しました。
23年度10月のえいすう社員の年休取得状況 - eisu ユニオン(鈴鹿英数学院労働組合) (rouso.jp)
一昨年、昨年同月対比ではえいすう社員の平均取得日数や取得率などがかなり向上しました。有休が取れない、休めない、休みが少ないと言われて久しい塾業界の中で、これはよい傾向だと思います。やはり学習塾には労働組合が必要です。
ところで、ブラック企業の特徴の一つには年次有給休暇(有休・年休)を取得させないという特徴があります。ビッグモーターでも社員に有給休暇をほとんど使わせなかったことが報道から明らかになっていますね。
有給休暇に関しては、会社が有休を認めない。有休日数が法定より少ない。有休を使うと評価を下げられる。経営者から有休を使うなと強要されるなど、明らかに労働基準法に違反する事例が多いです。
そこで有休の制度について知っておくべきこと、ブラック企業にだまされないための注意点を説明します。これは学習塾だけでなく、どんな業種の企業にも該当します。
有給休暇とはどういう制度か
皆さんは、有給休暇の制度をどのように考えていますか。多くの人が会社(経営者)から与えられるものと考えているのではないでしょうか。でも有休は労働者が会社(経営者)からありがたく頂戴する権利ではありません。
有休は労働基準法により労働者の権利として規定されており、労働者が健康で文化的な生活を営むために付与されることを法律で明文化したものです。したがって有休は取得したい時にいつでも取得できるし、取得理由も労働者が個々に自由に決められます。これを時季指定権と言います。
会社は労働者が有休の取得を申し出た場合は即時に認めないといけません。また会社が労働者に有休を取得させないようにすること。つまり有休を認めなかったり、取得すると評価を下げる、賃金を下げるなどと言って労働者の有休取得を妨害することは労働基準法違反となります。
これに対し、会社には時季変更権といって労働者が申請した有休の日時を、会社の命令で別の日に変更させることができる権利があります。でも会社がこれを行使するには厳しい要件が必要で、単に ”繁忙期だから” とか ”人手が足らないから” という理由では労働者の有休申請を拒否することはできないことが判例上確立しています。
会社の時季変更権が有効となるのは、有給休暇を申請した本人が、その日その時間に、勤務場所にいないと、業務に重大な支障(損害)が出るといった場合のみです。普通のサラリーマンには100% 該当しないでしょう。
つまり労働者の有休申請に関しては、原則として会社には『拒否権』がほぼ認められないのです。このように実際には、有休の請求権は労働者の持つ権利としてかなり強い力を持っているのです。
そんなわけでブラック企業の経営者にとっては自分の会社の従業員にできるだけ有休を使わせないことが重要になってきます。従業員が有休を使って仕事を休んでも給料をカットできないのだから、ブラック経営者にとっては、できるだけ従業員に有休を使わせたくないと思うのは当然ですね。
それでは、ブラック企業はどのような方法で労働者に有休を使わせないようにしているのでしょうか。
社員に有休を取らせない方法いろいろ
■就業規則を利用
これはブラック企業でよく使われる方法で、法律を詳しく知らない人なら大抵だまされてしまいます。
過去にこういう事例がありました。三重県にある某パチンコチェーン店の従業員が「会社が有休を取らせてくれない」という理由でユニオンみえに加入しました。会社との団体交渉で、経営者が出してきたそこの会社の就業規則に、何と『従業員の有給休暇は認めない』と堂々と書いてありました!!
当然これは労働基準法違反となるので、いくら就業規則に書いてあっても無効となり、会社は従業員に法律どおりに有休を与えないといけません。これには団体交渉に出てきた会社側の社労士もあきれていました。
経営者の中には自社の就業規則などの社内規定を絶対不可侵の憲法のように考えている人もいますが、これは大きな間違いです。
就業規則もそれに附属する社内規定もあくまで ”社内だけ" に適用されるルールであり、当然ながら労働基準法などの公法(一般法)が優先されます。就業規則に書いあっても、公法に違反する内容や、公法の基準を満たさない内容は全て無効になります。
■採用時の雇用契約を利用
採用の段階で会社と労働者が交わす雇用契約書を利用する方法もあります。
この事例は、三重県の某介護サービス会社で働く従業員がユニオンみえへに加入したことで発覚した件です。この会社では、従業員を雇用するとき『私は会社に対して有給休暇を請求しません』という契約書に署名、捺印させることを採用条件にしていました!!
でも会社がこのような雇用契約で従業員を採用すること自体が民法の規定に違反します。もし雇用契約書に署名、捺印していたとしても、このような契約自体が法律上無効になるので会社は従業員に有給休暇を与えないといけません。
ちなみに『入社後、私は労働組合には加入しません。組合活動も行ないません』という条件で従業員を採用することは黄犬契約といって労働組合法違反となるので無効です。
労働基準法に規定される有給休暇の趣旨をよく理解し、ブラック企業に騙されないようにしましょう!
■社内研修で 有休=ダメ社員 と刷り込む
社内研修などで『有休を使う = 悪いこと』と繰り返し刷り込むのもよく使われる方法です。これは日本人の、自己主張せず、周囲に合わせるという性質を悪用して、有休を取得しにくい ”空気" を職場内に作り上げ、従業員に有休を使わせないようにすることです。
この方法によって従業員に有休を申請し難くしている会社は、ブラック企業も含めて実はかなり多いのです。たとえば普段の業務や社内研修などを通して・・
・有休を取る人は仕事ができないダメ社員である
・有休を取る人は給料ドロボーである
・有休を取る人は会社に貢献できないお荷物社員である
・有休を取る人は仕事を通して成長できないダメ人間である
・仕事の結果も出せない人は有休を取ってはならない
・有休を取る人はお客様のことをまったく考えていない
といったことを徹底して刷り込みます。まさに洗脳ですね。社会経験が少なく純粋な20代の若手社員がこの手に陥りやすいと言えます。もし日常業務の中でこうしたことを繰り返し言われるなら、ブラック企業の可能性が高いです。
有給休暇は労働者の権利として労働基準法に明記されています。したがって有休を取る人にダメ社員、給料ドロボーなどのレッテルを貼る会社などさっさと退職した方がよいでしょう。
次回はブラック企業がよく使う、社員に有給休暇を取らせない制度的な方法について説明します。
後編に続く
教育業界の特徴として、有給休暇(年次有給休暇)が取りにくい職場が多いです。社員が有休を取らずに働くことを美徳と考える昭和の労働観から抜け出せない経営者もいます。
皆さんの職場では有給休暇を取りたいときに取れますか?